某友人に小説を書いてもらいました。

これはこの弱小ブログを少しでも魅力あるものとするためにある人物へお願いして書いて戴いた小説です。忙しい合間を縫っての製作ですので、更新は不定期ですがゆっくりながらも連載していく予定です。もし、ご意見や感想などがございましたら、まずは私のところまでコメントにてお送りください。責任を持って作者に届けさせて戴きます。
では、お楽しみ戴ければ幸いに存じます。




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『W.W.E.-anther story's 〓―”O3×1996”』
 探し物はなんですか?
 見つけにくいものですか?
 鞄の中も、机の中も、探したけれど見つからないのに。
 探すのを止めた時。
 見つかる事も良くある話。
 踊りましょう。
 夢の中へ・・・。
 行ってみたいと思いませんか?
                 
                  井上 揚水 「夢の中へ」



先送りにせねばならない事など、この業界に身をおいていればいろいろとある。それは主に実生活面のことであり―例えば、一週間部屋に溜めっぱなしのごみのことであったり、一週間サボりっぱなしの大学の講義のことであったり、一週間ほったらかしにしてきたサークル活動であったりと・・・・・、まぁ平たく言えば、『仕事優先』の職場なのだ。
最優先権(プライオリティー)は仕事の『完遂』である。
その間放置され続けている『表向き』の生活に関しては、当局はいっさいの責任を
持ちません・・・・・みたいな?
おいおい、ジェームスボンドも泣いてるよ。仕事の途中で死んでしまうならその後の生活なんて関係なくなってしまうかもしれないが、自分は『生きて帰る』ために仕事場に来てるんだ。だいたい死ぬつもりの気構えではこの仕事はままならない。常に皆、死ぬために仕事に望むなんて本末転倒な情熱は持ち合わせてはいない。帰る為の生活の場というものを皆それぞれ持っている。だから、
「時間外手当つくんでしょーかね?」
そんな言葉がついつい自分の口から滑り落ちてしまうわけだ。
そんな自分の愚痴に付き合ってくれるのは目の前の加賀山 惣一くらいしかいないのだろう。加賀山は「さぁな?」といつのも余裕を絶やさず自分の質問にそう言葉を漏らし続ける。無論、その間も彼が望遠鏡越しの監視対象者サブジェクト)から目を離すと言った愚は起こさないのだが。
「『一局』の連中と違って、俺たち『二局』の勤務時間は実質に二十四時間ってなも
んだろ?」
「そう”聞いていた”のですが・・・・・、なんだかいいようにこき使われているよ
うな・・・・・」
「夏樹―手前がド新人だからだろうが。まだ実感がねえんだろ?俺らがどんだけ危な
い橋渡ってるかってな。」
「・・・・・・・・」
ド新人。初現場勤務。自分―双然寺 夏樹は加賀山に言われた通りの新米。
だから、エリート街道と言われる『二局』に入局した時も、その後の出世で官職に有り付いてやろうという邪な野望しか沸いていなかったというのは本当、だからそれが現場に赴いてこのように現地仕事をするなどといった前提を通り越したぬか喜びであった事は否めない。実際、『一局』からの引き抜き(ヘッドハンティング)が、いきなり現場勤務無しに管理職級の役職になれるわけがないと、初めから分かっていた事であろうに・・・・・。
本当に、自分は『私たちの世界』の『公安局』の現状をもっと自覚すべきだ。そして何より、まだ組織に透明性のある『一局』―『捜査公安部』ならともかく、諜報機関特有のあの不透明さに包まれた『二局』―『情報公安部』に入る身ともあれば、必要以上に身構えるべきだった。
「まぁ、その年で工作員(エージェント)ってんだ、そうガッつきなさんなや。」
横の加賀山はそういかにもオヤジ臭い台詞を吐いてくれた。こういった台詞は年の
功と言う奴で、自分のような小娘が口にしたところで、たちどころにその言葉の魔力
は失われてしまうのだろう。
いいな・・・・、一回こういった台詞を吐いてみたいよ。どのくらいの人生経験を積め
ばその言葉の含蓄は生まれるのだろう?
「加賀山さんは・・・・”O3(オゾン)”に入局してどのくらい経つんですか?」
そう自分は思ったままを佐賀山に訊ねる。しかし加賀山は「ん?」と若干頭に疑問
符を浮かべたような台詞を呟き、続ける。
「・・・・あぁ、『二局』の事な。お前よ、せめて一介の工作員になったんなら組織
名くらい伏せる甲斐性は見せろよ。」
「ぁ・・・・、すいません・・・・。」
その加賀山の溜息混じり台詞で自分ははっと気付かされる。まだ自分は昔の職場での癖が抜け切れていないと。自覚が足りないというより、自覚すら持ち合わせていない・・・・・・と言うのは新人ゆえの特権か?まぁ・・・・自分がただ抜けているだけか・・・・・。さすがに今のは失言だったろう・・・・。
 ”O3(オゾン)機関”― 『Organ of Ostensive Officer (明かされるべき者の機関)』。『二局』―つまり『情報公安部』の正式名称だ。『一局』に居たころは、情報部のことを「”O3(オゾン)””O3(オゾン)”」と当たり前のように仲間内で使っていたものだが、”今の現場”ではそれはタブーとなっている。ちなみに情報部もアウト。彼らは『二局』と言う。そして捜査部の事は『一局』と呼ぶ。つまり今の仲間内では『〜局』と呼ぶことが通例となっている。それは情報部が公安庁第二外局所属、捜査部が第一外局所属というところからきているというのは、説明するまでもないか・・・。
基本的に、捜査部とは情報に関する認識が違うのだろう。彼らは情報を尊び、故に隠語を多用する。『真』を隠すことで、そのもの自体の価値を何倍にもためる―という組織の気質が起因しているのかはわからないが。
まぁ、隠語、俗称に慣れ切って、自分の所属組織の正式名称さえすぐには思い出せなかった加賀山さんのことだ、どっぷりと、長々と、『二局』の気質に浸かっているのだろう。
「それもどうかと思いますけど・・・・」
ついつい、そのように言葉が漏れた。
その自分の呟きに加賀山は「あん?」と反応見せ、自分が「い、いえ・・・・」と慌てて訂正を入れたのはここだけの話。
本当・・・・、昔から思ったことがすぐ口に出ちゃうんだよね・・・・・私・・・・・。
と、そう自嘲気味な考えが頭を過ぎった。工作員としてそう言った悪い癖は早急に改める必要があるのだが・・・。
『E班(チーム;エコー)からB班(チーム;ブラボー)。監視対象者;M(サブジェクト;マイク)、区域〓-〓へ移動。こちらの監視管轄から外れる。監視をB班(チーム;ブラボー)へと継続。幸運を(グッドラック)。』
そんな私の考えが無線越しの報告で吹き飛ぶ。思わず「つ、ついにきましたよ加賀山さん・・・・!」と興奮気味に呟いてしまうほどに。
『こちらB班(チーム;ベータ)。了解、監視を継続し、維持する。』
しかし、横の加賀山は冷静にそう無線越しに別働隊に報告をする。そして、その目が幾分と鋭くなる。
思わず、自分がぞっとしてしまうほどに・・・・。
「・・・・・・・・・か、加賀山・・・・・さん?」
自分がそう横の加賀山に尋ねてもしばらく彼は沈黙を守った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・夏樹。」
「・・・・・・・・ぅ、は、はい!」
加賀山がいきなり破った沈黙に自分はたじたじにそう返事を返した。その声が、自分の知る加賀山の声よりも重く、そして、恐ろしい。
恐ろしい?自分はコンビの仲間に恐怖を感じているのか?そんなバカな。私たちは仲間・・・・・だ。でも・・・・・・・空気が、空気が違う。
『一局』に居た頃の現場の空気とは違う。全く、根本的に、概念的に、観念的に。ただ感じるのは溝(ギャップ)だ。日常と・・・・、非日常の。あるいはそれは、虚偽と、真の。
これが、『二局』の・・・・・、加賀山さんの本当の姿。
これが、今から自分が向かい合っていかねばならない者の真実。目の前の男は、か
いがいしく自分を『二局』へと導いてくれた男のものではなかった。一人の、プロフェッショナルとして加賀山は居た。
「夏樹、浮き足立つなよ。どうやら取引(パーティー)はここであるようだ。初現場にしてお前は『当り籤』だ。これがビギナーズラックなんて考えるなよ。お前はよっぽど神様に嫌われてんだ。」
「・・・・・・・・・・」
淡々と加賀山は語っていく、そして手際よく『準備』を整えてゆく。望遠鏡はそのままに、”レンズから目を離さずに”腰からコルト社製・デトニクス45自動拳銃を引き抜く。更に無線に繋がったイアホーンをすばやく方耳にだけに装着。その間も彼の言葉は続く。
「俺たちの任務は秘密裏に行われなければならない。それは”なかった事”にしなければならない。『俺たちの存在』、『俺たちの社会』の原則が存在の隠匿なら、『二局』は更にその上を行くべき存在だからだ。悟られてはならない。そのために、俺たちは”こういった力の行使”を許されている。」
加賀山がデトニクス45の遊底(スライド)を引く。既に薬室(チェンバー)に装填されていた45・ACP弾がその顔を覗かせる。
その瞬間、自分は来るべき時が来たのだと、同じく自分も腰からグロック26自動拳銃を引き抜く。そして目の前の三脚で支えられた望遠鏡のレンズの先の”仕事場”を見る。
さっきまで自分たちが監視を続けていた監視対象者;H(サブジェクト;ホテル)の横に、新たな人物が現れる。それは別働隊―E班(チーム;エコー)が監視を続けていた監視対象者;M(サブジェクト;マイク)。
「今は方法論を語ってるんじゃない。結果論を語るんだ。手段は選ぶな。俺たち工作員にはその権限が許されている。そこに倫理、道徳は通用しない。コート出だからって、俺はお前が障壁になったなら―躊躇わずに撃つだけの甲斐性はある。」
ビルの屋上のドアが―自分たちの後ろに位置していたドアがゆっくりと開く。中から現れるのはスーツに身を包んだ男が二人。恐らく・・・・いや確実に『私たちの世界』の人間。
「回収班―B班補佐(サポーター;ブラボー)現着。後はお任せください。」
その二人のうちの一人が自分たちにそう言葉を掛ける。それを聞いた加賀山は「了解した」と、そう簡素な返事を返した。そして立ち上がる。自分もそれに習う。既に、監視を行う必要はなくなったのだ。レンズから目を外し、加賀山が始めてこちらを見て言う。
「夏樹。お前は下から回って上を張れ。俺は上から行って”直接”張る。事前の会議(ブリーフィング)通りだ。対象の持っているブツを確認したら即拘束、抵抗した場合は・・・・すばやく”無力化”しろ。出来るな?」
『無力化』。方法論ではなく結果論としてのそれ。最早・・・・・改めて言う必要もないだろう。
「了解しました。」
自分もまた、そう簡素に加賀山に答える。この仕事に、無駄口は必要とされない。迅速で、かつ徹底された返答―阿吽の呼吸で現場はコミュニケーションをとる。
しかし、彼の場合は例外だったのかもしれない。その一瞬だけは。
「まぁ・・・・・、一応は期待してるんだぜお前さんのビギナーズラックってやつをよ。」
そう加賀山は自分に嘆息しながら”無駄口”を告げた。その顔を、普段のそれに戻して。
そう、私はその一瞬の久我山さんにまた会うために、必ず戻ってこなければならない。
「行くぞ夏樹。」
自分の返事も聞かずに、加賀山は闇夜に消えた。ビルを伝うその連絡等にその身を投げていた。自分も非常階段のほうへ立ち返る。その手にグロック26を携え、今の自分の”向かうべき”場所(ポイント)へと歩を進める。その後ろで「B班(チーム;ブラボー)突入しました」と無線で本部(HQ)に告げる補佐班の声を自分は聞いた。
自分に出来るのか?そう言った事は、今考えるべきことではないと自分はその不安を押し潰す。
 今できる最善を。
 今出来うる最良を。
 今しか出来ない選択肢を。
 今するべき行動を。
 今想定できうる策を。
 今認識するべき現状を。
研修で叩き込まれた訓練が、そうやって日常の思考法を塗り替えてゆく。よし、モチベーションが上がってきた。自分は『二局』の工作員だ。一人の人間としてではなく、
 また一人の『魔術師』としてでもなく。
走りながらイアホーンを方耳に装着する。手元のグロック26には初弾の9mmパラベリウム弾は既に装填されている。制服のスーツの上には、軽量のケブラー材の防弾チョッキ。
完璧な用意。完全な事前措置。後は、現場の職員の要領次第だ。
『”魔術”公安局・情報公安部』工作員・双然寺 夏樹はそう思いながら闇夜を駆けた。


........... now loding part,2

版権.八津雲 幸太郎